あこがれ


あの日からずっと晴れた日がなかった。
春を待つしとしとと落ちついた日々。
満開の香りを誇りながら雨に散らされた梅を見送り、
桃の節句も過ぎ、沈丁花にくすぐられ、やっと書く気になった7列中央。


そばで、観られて、聴かれて、行かれて、本当によかった。
すぅと吸う息も、衣ずれも、もしかしたら髪の揺れる音まで聴いたのかもしれない。
健やかそうな肉体から発せられる繊細な響きの中に身を浸して、
夢のような夜。
そうはめぐってこない幸運。
あれこれ行けないかわりに、絶対に薄れない一生の宝物。
作詞家が言葉を紡いだときの
作曲家がくちずさんだときの
ひとつひとつの楽曲の、再びの産声を聴いたんだと思う。


帰り道、すべての音がわずらわしくて、街の雑踏もうとましく、
空港からの高速もカーステOffったほど。
TVも敬遠がち、今も実はそんな状態です。

聴きに行ったのはマルクス・ヴェルバ(Br) & ニコラ・ルイゾッティ(Pf) 歌曲の夕べです。